2012年3月31日土曜日

日清戦争前夜の日本と朝鮮(3)


(青木大臣意見「東亜細亜列国ノ権衡」より現代語訳。原文中の「ヽ」ルビは下線とし、「〇」ルビは下線付きで太字とした。()は筆者。)

 ここに世界情勢を観察すれば、日本、支那、及び朝鮮は、東亜の列国と言ってもよいだろう。
 そして東亜列国の領土面積を挙げれば、凡そ165万平方マイルで、その人口は4億1千万になろうとしている。これを全欧州と比較すれば、面積は91万平方マイル、人口は8千万を超過するものである。

 東亜列国はその国情において西洋各国とは異なるものである。故に、東亜列国が欧州列国に干渉することを主張し難いことは明瞭なように、東亜の事情について該列国は、毅然として自守し、欧州各国をして干渉させないことを主張する権利があることは疑いないことである。

 国土の巨大なる事と人口の多さの点で、清国は列国中の領袖である。しかし、政治や人民生活向上に於て論ずれば日本は政治上の首班を占め、率先の位置にあると言ってよいだろう。

 今、欧州各強国は、確実に兵力を拡張し、海外の所属地増加を図り、自国の管轄に帰し、以て新貿易地を拡張し、新物産の収穫地を略取し、或いは過殖人民の移住地を求めて植民地となし、以て国民の移住を奨励するなどの計画は、実に世界情勢として、容易ならない結果を現出している。
 即ち西洋各国が専ら侵略と殖民の政策を執行することを露にしている事実は、東亜列国をして西洋の侵略政策に対して、国土防禦の計画を講じることの止むを得ない事態に至らせた。
 そして日本国は東洋列国に於て、政治上首班の地位を占めるが故に、他に率先してその計画を規定するのはまた天賦の責務である。

 そもそも日本は、愛国勇敢の人民で満ち、これに加えて異人種の混合がなく、兵員を募るのに最も良い条件を有しており、以て我が国の国土維持をするのに少しも欠けたところがない。
 しかしながら、事を未然に防ぐは政策の要であって、決して等閑に付すべきものではない。即ち、一旦欧州強国が、東亜列国に対して侵略の計画を目論むことを欲するなら、我々列国はこれに対して如何なる対処をするべきか。または、既に侵略した東亜の領地で、ある西洋国が兵力を著しく拡張するようなことがあるなら、これは日本国への平和治安に対する直接の脅威ではないのか。これこそ日本が防衛ラインを拡張して兵勢を増加する所以である。

 今、欧州各国中最も乱暴で、常に危険の根源となっているのは露国である。そして東亜中最も脆弱であり、露国の弊害を先ず蒙るのは朝鮮国である。

 露国の政策というものが、領土拡大であることは固より言うまでもないことで、その政略の中心は海港を占有することにある。そしてその海港は冬にも氷閉しない不凍港を択ぶことにある。

 アジアの東端に於て、何が最も露国のこの計画を全うするかを考えるなら、朝鮮諸港の占領以外にはない。
 しかし朝鮮は東亜列国の喉元といえる要衝であり、乱暴なる露国のようなものがここを占拠するなら、日清両国の海洋を睨んで覇権を掌握することは敢えて難しいことではない。

 故に、今日のように、朝鮮が疲弊して防禦すべくもない地位であることを放置し、露国が漸次蚕食の計を思うが侭に行い、寸を進めて尺の土地を掠め取ることを狙って、朝鮮北部の黒龍地方を根拠とし、朝鮮半島に事を挙げる基礎を固めさせるようなことがあっては、その貪欲強悪の勢いは終に制止できない事態に至り、到底東亜の平安を得ることは出来ないことである。
 そして極東の均衡を穏当に保つことも、木に登って魚を求めるような挙に属することではないのか。

 そして又、露国が東亜列国を威迫するのも、ひとり朝鮮方面だけで止まることではない。その日本海、オホーツク海、太平洋に面する地域は、日清両国にとって常に危難憂慮の源であるだけでなく、露国領シベリア境界と清国領とが接していることも、中国にとっては常に脅威である。