まず、渋谷ヒカリエは土地の広さからして高層は止むなしだから、外観から大してインパクトを受けることはない。東急文化会館時代にはたまに映画を見に行っていた。むしろその時の思い出の方が脳裏にはくっきりと焼き付いている。
商業施設の「シンクス」は地下鉄駅から地下3階に入れ、いきなり和洋惣菜や生鮮が並ぶデパ地下が出現。地下2階も同じ様にスウィーツやベーカーリーの売場が軒を並べる。さらに地下1階と1階は自然派&ブランドコスメと雑貨の売場で、まるで"東急百貨店?"と見まごうばかりだ。
コスメの最高級ブランド「クレ・ド・ポー・ボーテ」や「クリニーク」があるかと思えば、OL御用達の「RMK」もリーシング。個人的に興味があった「天衣無縫」は、品揃えも手薄で日暮里の生地屋レベルにも及ばない。
陳腐化してしまった道玄坂の東急本店ならこんな構成でも納得できるが、渋谷のランドマークでいったいどんな客層を狙っているのか、非常に理解に苦しむ。 「少しは工夫しろよ」と思わず突っ込んでやりたくなった。 この4フロアを見ただけで、東京トレンドへの期待は脆くも崩れ去ったのである。
ただ、探せば何かレアなショップがあるだろうと2階に上がっても、自主編集の「パーツジョイス」も通常百貨店の1階にあるような洋品売場で、「マーク・ジェイコブズ」や「シー・バイ・クロエ」などの雑貨を組み合わせて体裁を整えているに過ぎない。
あなたの愛のために、私は`何かをと思い、私は何をするだろう
3階、4階はセレクトとブランドを集めたファッションビル的フロア。愛用のtheoが少しくたびれてきたので、「リュネット・ジュラ」でメガネフレームを探すも、あまりに奇抜すぎて逆にドン引きした。百貨店ライクで大人を狙うならアン・バレンタインやアイ・ワークスくらいがちょうどいいのではないか。
5階はライフスタイルフロアを標榜しているが、これもどこかで見たことあるような雑貨が並ぶだけ。「ザ・コンランショップ」なんて、キッチングッズの品揃えはよっぽど福岡岩田屋の方が充実している。以前に書いた福岡発の「オクタホテル」は大きめのフロアで結構人の入りは多かったが、「九州のど田舎のショッピングセンターでも、全く同じ商品が買えますよ」と言うと、東京の人はどう思うだろうか。
シンクスの地下3階から5階までのフロア構成を見る限り、百貨店に近いファッションビルのようで、中途半端な商業施設としか言いようがない。
特にテナントが多数集められている割に百貨店のハコのような作りでは、店舗がフラットに見えてしまう。せっかくの渋谷なんだから、何で店づくりやテナントでもっと冒険しなかったのかって思う。非常に期待外れの施設である。
だから、キャッチコピーの「ショッピングが変わる。あなたの行きたい渋谷、シンクスはじまる。」には全く裏切られた感じだ。Bunkamuraの時代ならともかく、あれから20年以上たった今、この程度の表現力でプレゼンが通ったのかと思うと、販促担当者やクリエーターのイージーさに呆れかえる。
総括すると、渋谷ヒカリエはコストをかけても出店できる限られたテナントの集積に甘んじたようだ。それが東京でしかお目にかかれないショップや商品ならともかく、地方でも同じものがいくらでも買えることを考えると、都市と地方のテナント格差がなくなりつつあるという皮肉な状況を露呈している。
もう、古き良き神宮前では無くなった。
人生で最高のものは無料洋子です。
一方、「東急プラザ原宿表参道」は表参道を歩いていくと、まずトミー・ヒルフィガーのエントランスが現れる。1階は古き良きトラッドショップの雰囲気で、2階は一転スポーツカジュアルのコーナー。プレッピーな米国スタイルより、カジュアルの方がトミーらしい。地下1階にはコレクションラインを揃えるが、ビビットでコントラストの利いたカラーコーディネートを日本人が着こなせるかは疑問だ。
97年、ニューヨークで取材した時、トミー・ヒルフィガーは「MTVで歌うヒップポップのミュージシャンがオーバーサイズのウエアを着ていた」ことで、火がついたとのことだった。その後、ストリートの衰退とともにキレイ目のアメカジ&スポーツスタイルとしてブランドポジションを確立した。
奇しくも原宿に旗艦店がオープンしたのは、日本も同じ流れということだろうか。ただ、米国では郊外のショッピングセンターにも出店されており、この辺はブランド崇拝の日本とは違うところだ。
明治通り沿いにはバロックジャパンリミテッドの旗艦店「ザ・シェルター東京」が派手なビジュアルと控えめのエントランスで構え、その横に「アメリカン・イーグル・アウトフィッターズ」が軒を並べる。
シェルターは新ブランド「エンフォルド」「アヴァンリリィ」に加え、コスメやスウィーツ、雑貨まで揃える。同社は仏系ファンドCLSAの投資先であるがゆえ、短期に収益を上げなければならないせいか、ウエアの企画デザインは頭打ちで多少の焦りを感じている様に見える。その穴を埋めるのが周辺商材ということだろうが、コスメや雑貨にそれほどの力は感じられないという印象だ。
寂しい、日歌詞の夜はとても悲しいです。
アメリカン・イーグル・アウトフィッターズはさほど報道されなかったが、本社直轄のジャパン社ではなく、洋服の青山が90%、住金物産が10%を出資した会社がFCで運営する。住金物産は小売りの素人だし、出資比率から見ても青山商事が運営の実権を握ると見て間違いない。
商品はギャップよりもトレンド性を持っていて、価格も手頃。姉妹ブランドでインナーウェアの「エアリ」もこれまで日本にないブランドだけに期待はできるだろう。
場所柄、じっとしていてもお客は集まる。あとは他の低価格ブランドとの差別化をいかにスタッフが接客で強調できるか。成功は店長のマネジメント能力や売れ筋商品の適時配置にかかっていると思われる。
3階にはレディスフロアで、リオーネ デュラス、スパイラルガールなどを揃えた「ルーミーズ」があるが、渋谷109では店舗スペースに限界があり、こちらにリーシングされたように思える。
マークスタイラーが手がける「チュージーチュー」の「エリアーヌジジ」や古着、エイ・ネットの「ユーモア・ショップ バイ エイ・ネット」のウェアやファッション雑貨に、多少原宿らしさを感じさせる。
コンセプトショップの「オモハラステーション」がカラージーンズを提案していたが、この程度ではMDの手詰まり感は否めない。また、「トーキョーズ・トーキョー」もレアなアイテムを一カ所に集めたことは評価できるが、大抵の商品が他でも購入できることを考えると、わざわざ行く気にはならない。
飲食テナントも今や地方都市でさえ出くわすメニュー、業態ばかり。場所が原宿ということを除けば、ステレオタイプなリーシングに落ちてしまったようだ。
筆者は高校生の頃から表参道、原宿には人一倍思い入れが強い。 いわゆる業界人が闊歩するエリアだったからだ。一早く「Do! Family」を買った時は、学校で友人に「原宿帰り」を自称した。
この前の前のビルは「原宿セントラルアパート」で、イラストレーターやコピーライターなどのクリエーターが事務所を構えていた。糸井重里のオフィスもあって、西武百貨店の名コピー「不思議大好き」はここで生まれた。2、3軒東隣のビルには中華料理店があって、業界人になってから何度か打ち合わせに使ったけど、料理がまずかったことしか憶えていない。
大学に入った70年代の終わり頃、この並びに繁る緑はとても鮮やかだった記憶がある。平日の昼間にマンションメーカーのスタッフとすれ違い、日曜日の朝に雑誌の撮影隊なんかと出くわすと、すいぶんお洒落な気分になれたものだ。 幾度の開発によってそうした古き良き神宮前が失われてしまったのが、残念でならない。
今回、渋谷、原宿の両施設を見てみて、商業ビルの域を出ないという印象だ。だからトレンド発信という機能を有するかは甚だ疑問だ。ニューヨークのようにカルチャーやムーブメントを起こすようなものは、もう東京からは発信されないってことだろうか。
両施設に限らず東京における商業ビル開発の背景を見ると、銀行がダブついた資金を地主企業に融資し、再開発事業の名の下でゼネコンがハコを作って、デベロッパーがテナントを集めるビジネスモデルだから、「モノを売って、家賃を払ってもらう」ことしか能がないのだろう。
ただ、そんな利回り事業では、カルチャーもムーブメントも醸成されないことだけは事実である。それでも、若者は刺激的と感じるようだが、居住コストや生活不安のリスクを考えると、地方で起業するか、直接海外に出て行った方がよほど夢があると、両施設を見て改めて感じた次第である。
0 件のコメント:
コメントを投稿